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『我らの不快な隣人』米本和広著 書評集

『文藝春秋』2008年10月号


語られない真実 文・斉藤環精神科医
『われらの不快な隣人』(米本和広著・情報センター出版1680円)

 過剰なフレームアップをする一方で、メディアは重大な事実を黙殺する。
 例えば現代の日本において、白昼堂々、拉致監禁が行われているということ。米本和広のひさびさの書き下ろし『我らの不快な隣人』によれば、これは紛れもない事実である。

 名著『洗脳の楽園』一冊で、カルト集団・ヤマギシ会を実質的に崩壊させた米本は、その後も一貫して反カルトの著作を世に問うてきた。
 
 本書のテーマも統一教会だが、意外にも反・統一教会ではない。本書で彼が告発するのは、統一教会信者に対して救出カウンセラーと家族が行っている、拉致監禁をも辞さない脱会活動である。それはしばしば暴力やレイプの温床となり、信者は脱会できても重いPTSDやうつ状態に至ってしまう。中には12年間も監禁されていた事例もあるという。

 ゆきすぎた反カルトの風潮は、そうした事実すら口にされにくい空気をもたらしてはいないか。

『週刊現代』2008年9月27日号


『週刊現代』9月27日号に『我らの不快な隣人』の書評が取り上げられました。
書き手は、イラストルポライターの内澤 旬子さん。 リレー読書日記 – かつての「宗教ブーム」を同時代人として生きた記憶を改めて確かめた3冊の本の中の一冊として『我らの不快な隣人』が取り上げられました。

週刊現代 リレー読書日記  内澤旬子 
『われらの不快な隣人』(米本和広著・情報センター出版1680円)
統一教会に入信した身内の「マインドコントロールをはずす」ためにと、親や兄弟が信者となった子供を拉致監禁するという事例を丹念に追ったルポ。信者は脱会できたとしても、一番信頼している家族に拉致監禁されたことによる重いPTSDにおそわれ、家族関係が元通りになる事は難しいという。
「力ずくでも取り押さえてやめさせるべき」と誰かが言うのを聞いたことがあるが、まさか本当に路上で拉致して担いで窓を板で覆ったマンションの一室に閉じ込めていたとは。
そりゃ全財産を教団に貢がれては、身内はたまったもんじゃないのは同感だが、若者が言うように、人には信仰の自由があるわけで、力ずくで脱会させていいわけない。
カルト信者は人にあらず、よって拉致監禁も辞さずいう風潮が盛んになってきたのは、オウム事件の影響もあったという。
それにしてもうろたえる親たちがすがる「脱会屋」にキリスト教会が関わっているとは、うさん臭さも倍増しに。教会を脱会させるために教会に通わねばならないパターンもあったという。
狂信もヒステリックなバッシングも実は表裏いったいなのではと思えて来る。宗教に対しての免疫がなさ過ぎるためなのか。

『月刊プレイボーイ』2008年11月号


書き手は、翻訳家の徳川 家広さん。
『われらの不快な隣人』(米本和広著・情報センター出版1680円)
徳川氏が感じ入った本文の一部分

~親による拉致監禁は信仰を剥奪するだけにとどまらず、信者が入信する以前から培ってきたもの、人格といえばいいのか、信仰の土台である人間としての根源的な部分まで根こそぎ剥奪する行為なんですよ。~

もう十年近く前に、新潟県で見知らぬ男の家に9年間監禁され続けてきた少女が発見され、警察に保護されるということがあった。なんともショッキングな事件で当然ながら大騒ぎとなっている。だが、今年の2月に、それも都内で、十二年五ヶ月も監禁されて衰弱しきった青年が発見されたことを、読者はご存知だろうか?

青年を監禁していたのは、かれのかぞくだった。家族は、青年にといつ教会に対する信仰を、放棄させようとして、荻窪のマンションに彼を封じ込め、彼が逃げ出さないように見張り、信仰を放棄させるための「説得」を続けるべく、共同生活をしていたのだ。統一教会といえば、霊感商法であり、合同結婚式ということになる。

右翼団体「勝共連合」のスポンサーでもある。そんな宗教に子供が入信したら、確かに親は心底困るだろう。

だが、子供の困った信仰心を捨てさせるのに、拉致監禁の上で、拷問としか思えないような「説得」を続けるという親たちの愛は、いったいどれだけまともなのか。それこそが、今回取り上げる「われらの不快な隣人」のテーマである。

著者はオーム真理教など、近年の駆ると関係で読ませるルポを何冊か書いてきた米本和広だ。本書も丹念で情熱のこもった取材ぶりで、文句なしの力作と言えよう。

子供が統一教会信者になったことに慌てた親は、脱洗脳のエキスパートを自称する人たち(主にプロテスタントの牧師)の指示に従い。その協力を得て、集団でわが子を襲って連れ去り、マンションの一室に閉じ込めてしまう。そして、子供をばとうし、恫喝し、時には暴力をふるって、何とか信仰を捨てさせようとする。

信者たちは家族の非道な扱いから受けて衝撃で、心を病むようになり、強烈なアトピー症状を出すものもいれば、自殺してしまう者もいる。

問題の根っこにあるのは、脱洗脳エキスパートたちが、依頼してきたかぞくや、彼らが救うべき若者の幸せよりも、自分や自分の教団の利害を第一に考えて行動しているとしか思えない点のようだ。

みんな、生臭く、しかも目的を履き違えているのである。それに、わがこの言うことに、ぜんぜん耳を貸さない親たち。結果として統一教会に入信してしまうほどに混乱している若者たちがひたすら苦しむことになる。

日本社会の実に嫌な、だがだれにでもおぼえのあるであろう一面が浮き彫りになった、貴重な一冊だ。
参考文献:『月刊プレイボーイ』2008年11月号

『読売ウィークリー』20 08年10月5日号


目を覆いたくなる「救出」劇 (評者 評論家・芹沢俊介)

 久しぶりに「衝撃的な」という形容を留保なしに使っていいノンフィクションに出会った。副題に「統一教会から『救出』されたある女性信者の悲劇」とあるように、「救出」されなかったことの悲劇ではなく、「救出」されたことの悲劇を描いたのがこの本なのである。

 著者は、私たちが触れることを恐れていた地点にまで踏み込んで問いかけてくる。統一教会はこの世界にあってはならない悪のカルト教団であり、したがって撲滅すべきだというのは本当か。統一教会信者はみなマインドコントロールされている。それゆえ一人残らず「救出」の対象であり、改宗の対象であるという認識は正しいか。また合同結婚式で韓国に渡り、韓国人男性と結婚した日本人女性信者たち6500人が行方不明となっているという、反統一教会側の人たちが流している情報は、本当だろうか?著者の答えは全てにわたって「ノー」である。

 行方不明といわれている女性たちが実は行方不明でもなんでもなく、日本の家族と連絡を取り合い、子供と夫を連れて里帰りをしている人たちが殆んどである。少なくとも、居所を伝えていない者は皆無。しかも日本人女性たちは韓国社会にしっかりと根を下ろしているというのだ。衝撃的であった。

 著者が真正面から挑んだのは、「救出」劇のとてつもない暴力性に対してである。統一教会から我が子を取り戻して欲しいという家族の依頼を受け、脱会請負の「専門家」(主にキリスト教の牧師)たちが動き出す。力による問答無用の拉致。そこからはじまる一方的な脱会の説得。説得という名の罵倒、こきおろし。脱会の応じない場合の何ヶ月におよぶ密室への閉じ込め。それを監視する元信者と家族。専門家によって駆使されるお粗末なマインドコントロール論・・・・。

 体験者たちが語るこの「救出」過程のすさまじさは、目を覆いたくなるほどだ。「救出」されたばかりに、元信者たちは立ち直り不能なくらい深い精神的損傷を被ったのだ。家族不信、人間不信、PTSD(拉致監禁がその後の生活にもたらしたトラウマ)、心身症に苦しみながら生きる元信者の痛々しい姿が、無類の説得力をもって私たちの前に浮かび上がってくる。

 著者のいいたいことは、こうだ。 統一教会もその信者も「不快な隣人」かもしれないけれど、決して平和的に共存できない相手ではない、と。綿密な取材をもとに ここに導き出されたこの結論に、私はうなずかざるを得なかった。

クリスチャン向け雑誌『リバイバル・ジャパン』2010年2月1日号


(本誌編集長・谷田和一郎)

 文鮮明を再臨のメシアと仰ぐ世界基督教統一神霊協会(本書では統一教会と表記)に子供が入信してしまい、それを心配した親たちがプロテスタントの教会に相談に行き、そこで「保護」を勧められてマンションやアパートの一室に子供(20歳以上も多い)を閉じこめ、そこに牧師らが訪問して説得活動を行う。これは実際、30年以上前から数え切れないほど統一教会信者に対してなされてきたことだ。
 著者はヤマギシ会などのカルト問題を迫及してきたフリーのルポライター。カルトの問題性を追求するうちに、それを脱会する側にも大きな問題があると認識し、本書を上梓するに至った。

 まず著者は、脱会活動を行う牧師たちが用いる「保護」という言葉を、拉致監禁に他ならないと主張する。そして、牧師たちの実名を上げながら、具体的に何が行われてきたのかを紹介する。キリスト教界でもよく知られた牧師たちだ。

 特に、宿谷麻子という女性が東京・高田馬場のレストラン前で、親族ら9人によつてワンボツクスカーに強制的に押し込まれ、アパートの一室に閉じこめられた状況が詳しい。彼女は合計5カ月間にわたって監禁され、牧師や脱会者から説得を受ける。窓には2重鍵がかけられ、外から見えないように色つきのシートが貼られていた。

 彼女は、結果的に統一教会を脱会するが、極度のストレスから激しいアトピー性皮膚炎を発症し、また複雑性PTSDとも診断される。つまり、監禁されたことによって心と体を病んでしまったというのだ。

 一つの信仰を持った人物に対し(たとえそれがカルトと呼ばれるものであったとしても)、親族は、そしてキリスト教会は、どこまでの「説得活動」が許されるのか。それが本書のテーマである。

 脱会する側の動機としては、様々な要素がある。統一教会に入信した息子・娘は統一教会によつて行方知れずになり、多宝塔や壷を高額で売りつけ、多くの人々に被害を与えてしまう。それを食い止めるため、やむなくマンションに「保護」をする、というもの。反社会的なカルトに入って家族・親族に不利益が及ぶ、恥ずかしい、というもの。
 キリスト教界としては、日本基督教団の牧師などは社会悪と戦うという動機、福音派系の牧師は伝道的な動機。ただ著者は、伝道が日的の教会活動であれば、高額な脱会の謝礼を教会会計に入れないのは何故か、と鋭い指摘をする。

 また「マインド・コントロール論」にも疑問を呈している。現在、キリスト教会の内部で「教会のカルト化」ということが頻繁に言われ、その際にも「マインド・コントロールされていた」と証言される。その論理は正しいのかどうか、それを問い直すきっかけになる。

 本書の結論としては、精神的にも物理的にも拘束力のない自由な空間で、愛情をもって親子が向き合って話し合うこと、牧師などの援助者は、説得する親の援助を基本とすること、というものだ。

 また、エピローグでは、家族によって東京・荻窪のマンションに12年5カ月間も監禁されていた信者のエピソードが出てくる。監禁された側に充分に取材をしたためか、統一教会側にバイアスがかかつている傾向も感じられるが、キリスト教会としても真剣に考えなければならない問題が、本書にはある。

『本郷人』2008年8月号 


『本郷人』は「世界平和統一家庭連合」(韓国・統一教会)国際局が発刊する、韓国在住の日本人を中心に国際結婚した女性向け機関誌(日本語版の発行部数は約5000部)。

私たちの「重い真実」に光を当てる1冊 

<元反対派が拉致監禁問題を糾弾>

 昨年5月頃のある日、日本在住のCARPの後輩から私に、国際電話がかかってきました。なんでも、「米本和広さんというルポライターが、日本の反対牧師の拉致監禁に関する本を書こうとしている。韓国の統一教会の取材を希望しているのだけれど、本部にとりついでほしい」とのことでした。
 すぐに、家庭局国際部長の武藤さんに連絡をしましたが、「この名前、どこかで聞いたことあるなあ」と思ってインターネットで検索して思い出しました。『洗脳の楽園』、『カルトの子』などの著作がある、日本では「反統一教会ルポライター」として有名な、「あの米本和広」だったのです!

先頭に立って統一教会に反対してきたジャーナリストが、今度は、統一教会員が被害を受けている人権問題に関する本を書くのだということを知り、私は初めてことの重大さを認識できました。
 かくして取材は行われ、韓国では、米本さんの独自の人脈で、過去に拉致監禁の被害にあっていながらも、韓国で幸福に生活している姉妹たちと、それから本部を代表して、武藤さんに直接、インタビューがなされました。

 あれから、1年。とうとう本が出版され、その名も、『我らの不快な隣人~統一教会から「救出」されたある女性信者の悲劇~』(情報センター出版局)が、私たちの手元にも届きました。
 本は一見、おどろおどろしい雰囲気の装丁で、やはり「反統一教会派」の書籍か、と思わせるものです。ところが、その中身は、米本さんの人間としての良心と正義感に貫かれた、まさに、統一教会信徒に対する「現代の魔女狩り」を糾弾するものでした。

<忘れられた現実照らす「重い」本>

 正直にいって、この本は、拉致監禁の赤裸々な実態を扱っており、とても深刻で、「重い」本であるといえます。実際に拉致監禁の被害を受けた人には、過去のトラウマのフラッシュバック現象を起こさせるという意味で、読むことに注意が必要な本だともいえるでしょう。

 反対派のキリスト教牧師たちによって、私たち統一教会員に対する、肉親の愛を利用した「拉致監禁」という強制改宗手段が、過去から現在に至るまで、実に、4000件以上に及ぶ数で頻繁に行われてきたということ。今この時にも、あらゆる自由を奪われて、外部から遮断されたまま監禁された教会員が、数多くいるということ。
 何よりも、長期にわたる監禁生活の悲惨な現実。つい最近においては、なんと、12年5ヵ月という長期にわたって監禁され、最後には監禁場所から文字通り放り出された、という方までいます。
 そういった恐るべき犯罪行為を、心から「善」だと信じて、神の名の下に行う信仰者たちが存在するという事実は、背筋を凍らせます。

 最も大きな問題は、肉親としては「家族の絆を取り戻そう」としたはずの行為が、本人の心に取り返しの付かない大きな傷を負わせてしまい、親子関係に、むしろ決定的な断絶が生じてしまうという実態でしょう。
 そして、個人の人生にとって、その後遺症は修復不可能なものとなり、社会生活自体を、まともに送ることができなくなっている元信者たちが数多くいるのです。それらの人たちは、世間からも、統一教会からも存在を忘れられ、皆、孤独な痛みの人生を送ることを余儀なくされています。

 特に、「韓国に嫁いだら行方不明になる」と信じ込まされた親たちが、韓日の日本婦人たちを狙い、すでに韓国に渡って幸福な家庭を築いているにもかかわらず、帰省の際に拉致監禁して、強制改宗するということが、何件も起こっています。その結果、韓国人の夫や家族においても、突如として一方的に家庭を奪われ、人生を破壊されてしまうのです。

<「是々非々」に私たちが学ぶ時>

 反統一教会派という立場にあった米本さんは、この本を書くことで、「寝返った」、「裏切り者」という、反対派からのひどい罵声とバッシングを浴びています。それでありながらも、そのような、社会の中で存在すらも忘れられている被害者たちにスポットを当てて、「統一教会に対する拉致監禁の非」を、堂々と世間に訴えてくださっているのです。

 米本さんの本書におけるスタンスは、あくまでも「是々非々」(※正しいことを正しいといい、間違ったことを間違ったということ)です。だから、統一教会の問題点に関する指摘もきちんと書かれており、世間の誰が見ても、決して客観性を欠いた文章とはなっていません。

 この本を読んで、私たちに反対する人たちを批判することは簡単ですが、私は、それ以上に、この本が持つあらゆる「重さ」、胸の痛みをきちんと受け止めることこそが、私たちに願われていることだろうと思います。
 信仰というものを持たない立場でありながら、「真実」に対して、真摯な姿勢を貫いている一個のジャーナリズムに、後天時代の時代的重要性と合わせて、私たち自身が、真の信仰者としての原点に返ることを促がされているようでならないのです。

 今まさに、私たち自身が、社会の「不快な隣人」から「快い隣人」に変わるという、具体的で真摯な努力が願われている、ということでしょう。

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